Manic Street Preachers / Send Away The Tigers

Send Away the Tigers

Send Away the Tigers


 マニックスの新譜。
 悪くない。というか、ある意味ではすごくいい。かも。
 奥歯にもののはさまったような言い方になってしまうのは、彼らには、綺麗で華麗で澄明な曲ばかりでなく、ドローンと濁った陰鬱で気持ち悪い曲もやって欲しい、ついそう望んでしまうからだ。サード・アルバム "Holy Bible" の諸々の曲とか、"Black Garden" とか、"Removables" とか、"Small Black Flowers That Grow In The Sky" とか、"Comfort Comes" とか、"Tennessee"(インディーズ時代に録音されたヴァージョンの方)みたいな、マニックスの「陰」の面が前面に出た曲、も聴きたい。
 とはいえ、今回の作品はかれらの「陽」の方の魅力が存分にたのしめるので、うれしくない、ということはない。
 装飾が過剰なのだけど、そういう過剰に装飾がかった曲というのも、大好きなのである。明らかにかの有名な Guns N' Roses の "Sweet Child O' Mine" を模したと思われる高音のギターリフを味付けに入れてみたり、間奏には無駄に派手なギターソロをがんがん鳴らしたり、ストリングスがサビを必要以上に盛り上げたり、まったくもって暑苦しいのである。ドラムは余計なところでフィルイン入れて、しかもそのヴァリエーションがあまりないものだから、いいかげんしつこいよ、ていう感じがしたり。
 こういうマニックスらしさが、ひさしぶりに満開に花開いているように思えて、マニックス・マニアのひとりとしてはニヤニヤが止まらないのも事実である。
 飾りとはむろん表層にすぎないわけだけれど、はからずも、その表面に浮かんだ軽薄で安っぽくもあるうわずみに心身を捕らわれてしまうのも、ポピュラーミュージックを聴く最大の愉しみではあろう、と思わないこともないのである。一度聴いたらもうすっかり覚えてしまって、聴いた後も鼻歌でなぞらずにはいられないようなリフ、コーラス、フィルイン。言うなれば曲の「顔」にあたるところというのは、やはり無駄に印象深く、こじ開けるようにして過剰に記憶に浸入してくるものであるのがよい、と思う。
 もっとも、表層のみのきらびやかさであれば、くり返し聴いているうちに飽きがくるものである。しかし、本作はそういう心配はなさそう。
 というのも、どの曲も、装飾部とべつに基礎となるアンサンブルが巧みに作り込まれているから。個々のパートで見るならば、とりわけ技巧派のバンドとは言えないものの、歌の旋律、ボーカルの緩急、バッキング・ギター、ベースの組み立て方がさすがに見事だと思う。基礎となる各部分が、いちいち必然的なからみ合い方をしていて、「ここでこれ以外にありえない」という感じを抱かせる。
 とくに、4曲目 "Indian Summer" がすばらしい。せわしく動きまわるベースの上から、ストリングスとひずんだエレキギターが重厚かつ雄大な和音でもっておっかぶさってきては、また潮がひくように下がっていく。大波がやって来ては去っていくその足元で、小さくかよわき音たちのささやかな躍動が持続している。死に絶えることなく、洗い流されることなく。
 こういう「解釈」をしてしまうのは、私個人のそれこそ過剰な思い入れ、というか思い込みのなせるわざではある。とは思うものの、そんな物語的な「解釈」をせずにはいられなくなるのは、曲自体のアンサンブルが「きちんと」作り込まれているからであるとも思うのである。で、そういうふうにおそらくは曲ごとに何らかのコンセプトにもとづいてすみずみまで「きちんと」仕上げているのだろうと見受けられるミュージシャンは、やはり稀有な存在ではあるような気がする。私ごときが言うのははばかられるけれど、テキトーに作った曲と丁寧に作り込んだ曲は違うのではないかと思う。
 なーにエラソーなこと言ってるんだかね。


 ところで、シークレット・トラックでレノンの "Working Class Hero" をカバーしているのには驚いた。というのも彼らはかつて、"I laughed when Lennon got shot" と歌っていたのだから。ともあれ、絶叫調でやかましくて、田舎臭いほど露骨に情緒的な演奏が、ああワーキングクラスヒーローな感じだなあ、と思った。