「賛成か反対か」なんて問いのたて方が変じゃないの?


 内閣府が「男女共同参画社会に関する世論調査」というのをやったんだそうで、その結果が発表されていた。
 ここでは出てきた「結果」について云々するつもりはなくて、調査のねらいがよくわからないので、それについて「なんなのこれ?」っていう感想を述べようと思う。


 以下は東京新聞のサイト、「『妻は家庭』反対48% 内閣府世論調査」という記事から一部引用。

 内閣府が五日付で発表した「男女共同参画社会に関する世論調査」によると、「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきだ」という考え方に「反対」と答えた人が48・9%で、「賛成」の45・2%を一九七九年の調査開始以来初めて上回った。七九年の調査では賛成72・5%、反対20・4%だった。


 はじめに私自身の立場を述べておくと、いわゆる「ジェンダーフリー」といわれるところの啓発活動を政府がその担い手のひとつとなって進めていくことについては、「いいんじゃない、どんどんやれば」という立場である。
 しかし、いまひとつわからないのは、「内閣府は何をどうしたいの?」ということである。


 「『夫は外で働き、妻は家庭を守るべきだ』という考え方」に賛成か反対か、と尋ねたようだが、これは何を聞きたいのだろうか。つまり、「あなた自身の家庭の問題としてどうしたいと考えていますか」という個人的意思についての質問なのか、それとも「一般論として性別役割分業の考え方に賛成しますか」ということなのか。「賛成/反対」という言葉を使っていることからすると、後者なのだろうか。
 しかし、「夫は外で働き、妻は家庭を守る」かどうかということは、それぞれの夫婦が判断するべき個別の問題であって、一般論として、あるいは「べき」論として「賛成」か「反対」かと問うことには意味がないであろう。要するに、「各夫婦がしたいようにすればいいんじゃないの」としか言いようのないことであろう。
 そもそも、これを「世論調査」と銘打って行なうこと自体、変だと思う。「世論調査」というのは、税制をどうするかとか、現政権を支持するかどうかとかの、社会全体の意思決定に関する各人の考え方を問うものであって、個々人ないし個々の夫婦の意思決定に属する問題は「世論」ではなく「国民の意識」とかなんとか呼ぶべきことがらではないのか。
 おまけに、内閣府調査の問い方は、いささか対称性を欠いている。「『夫は外、妻は家庭』という考え方」に賛成か反対かの二者択一で問われた場合、いわゆる「反ジェンダーフリー」論者は、躊躇なく「賛成」だと答えられるであろう。しかし、反対に「男は外」的な性別役割分業を相対化してとらえる人からすると、それぞれの家庭の問題なのだから「賛成」も「反対」もないだろう、と答えにためらうこともあると考えられる*1


 整理しておくと、以下の別問題であるはずの2点が混同されているのではないか、ということ。
◆「夫は外、妻は家庭」という性別役割分業の意識が、個人の選択肢をせばめているんじゃないかという問題。
◆個々の夫婦が現実にどういう家庭内の取り決めをするのかという問題。


 政府機関なり公教育なりが「啓蒙」を通じて関与しうるのは前者であって、後者でないということは、はっきりさせた方がよいと思う。つまり、「男は外、女は家」的な役割分業には必然性はないし「自然」に根ざしているわけでもないという、いたって簡単なことを「啓蒙」なりなんなりすりゃいいじゃねえの、ということ。
 そういった性別役割分業意識を相対化したうえで、現実に「夫が賃金労働して、妻が家事・育児をする」というスタイルを選択する夫婦もいれば、その逆を選択する夫婦もいれば、そのどちらでもないスタイルを選択をする夫婦もいるだろうから、それはそれで勝手にすればいいじゃん、というだけことではないのか。


 「賛成」か「反対」かという社会全体の「世論」形成の問題ととらえる観点は、「日本の伝統」とやらに依拠したりもする「反ジェンダーフリー」論者のそれであって、なんで「男女共同参画社会」をすすめようとしている内閣府がそこに立つのかなあ、というのが疑問である。
 両者の争点となるのは、正しくは「個々の自由を尊重するか vs 尊重しないか」という点であろう。したがって、内閣府調査のしかるべき問い方は、以下のようになるのではないのか、と思う。


 「夫婦のあり方として『男は外、女は家』以外の選択肢があってもいいと考えている人もなかにはいるし、内閣府としてもそういう建前でことをすすめようと考えているんだけど、あなたそれ許せる? それとも許せない?」

*1:もっとも、調査結果によると、「賛成」と答えた人と「反対」と答えた人の合計が94・1%にも達している。ということは、大多数の回答者がこの二者択一にそった回答をしているということであって、それはそれで奇異な感じはする。