アナマキ最高、だった


 2日遅れのライブ・レポってのも間が抜けているけど、ちょいとメモしておく。
 2日も放置してたのは、忙しかった&疲れていたということもあるのだけど、すばらしい演奏を前にして何を言ったらいいねんっていうこともある。


 行ったのは5月13日、アナム&マキ with 中村きたろう、沼澤尚 @下北沢CLUB251。


 「レビュー」なんて私ごときがやるのは生意気・失礼だと思わされる、彼女たちのすさまじい演奏の前にはね。そうすると感激している「私」のありようを描写するしかないかな(「鳥肌が立った!」とかね)と思うのだけれど、それをやると語るべき相手であるアナマキさんたちはどっか行ってしまう。「レビュー」なんて要らねえ、「私」なんてもっと要らねえ、じゃあ何書いたらいいの? 何も書かないのが正解か。Shut up and dance! ということなのか。
 そうなのだ。でも、くだらない小理屈なんか抜きにすれば、何がすばらしいかってことは簡単なことなのかも。最初の曲でマキさんがガーンとギターをかき鳴らしたところで、もうひきこまれたよ。アナムさんの高音ヴォイスとマキさんの低音ヴォイスのハーモニー。ギタリストとしても彼女たちは、ものすごくうまい、センスもある、パワフル、かっこいい。アコギってこんな音が出るんだ、って度肝を抜かれるよ、ほんとうに。曲もいい。
 高い作曲能力があって、歌えて、しかもかっこよくギターを弾けるという2人がそろい、で、その2人の相性とチームワークがぴったりはまっていれば、そりゃあすばらしい演奏ができるでしょうというものではある。サポートする2人(中村さんのベースと沼澤さんのドラムス)も、CDで聴いて知っていたものの、ものすごいツワモノでした。


 もっと具体的に、どういう点がよかったかって? それを語る言葉がないのが問題なのだ。
 「よさ」の根拠を語るには、たとえば他のものとの《比較》という手がある。あまり品がよくないことで好きではないが、極端な話、クソなミュージシャンのクソな楽曲や演奏をおとしめてそれと比べてやれば、たしかにそれの「よさ」を語ることはできるだろう。
 あるいは《類似》によって「よさ」を語るという手もあるかもしれない。「○○に似ている」とか「○○系の△△というバンドを思わせる」とかいうふうに言って、「わかる人にはわかる」ような文脈を敷いてその中での位置づけを与えてやれば、なにごとかを伝えられるのかもしれない。
 でも、それらはいずれにしても、「よさ」そのものを語ることではないのだな、って躊躇してしまう。路傍に咲く小さな花の美しさを説明するのに、路傍の描写やその砂ぼこりのうす汚さを持ち出さなければらないのだとすると、それは花そのものを称讃しているわけじゃないだろう、と思うのである。


 アナム&マキを讃美したいのだけれど、他を引き合いに出すことなくそれをするには──彼女たちの音楽は、いくつかの意味で《比類なきもの》だという気がするのでね──どうしたものかねえ。
 何か「瑕」でもあれば、「かくかくしかじかの瑕をおぎなってあまりある○○という魅力が……」なんて語り方ができるんだけどね。たとえば、ピストルズ(「シドのベースは下手だけど……」)とか、ヤードバーズ(「キース・レルフのボーカルがねえ。でも……」)とか、ストーンズ(「キース・リチャーズは難しいことをしていいるわけではないのだが……」)とかは、語りやすいのだと思う。しかし、アナマキさんたちの演奏は、完璧、完成されている、欠陥が見当らない。
 もっとも、「欠陥が見当らない」ことすらも、「優等生で面白みがない」という欠陥として指摘されたりすることがときとしてあるのではあるが、彼女たちの音楽はそういうのでもない。
 一見鼻持ちならぬ挑発的なトゲのある歌もあれば、恨みがましい歌もあれば、一瞬ちょっとひいてしまいそうになるどろどろした歌もあるのだが、今回のライブで確認できたのは、そういうあんまりリスナーとしては直視したくない、言うならば心地よいとは言えない要素に対して、彼女たちはサラッと距離をとるようなかろやかさを同時にもっているということだった。ネガティヴな要素を包み込むような余裕。
 適度な演技性と言ったらよいだろうか。「悩む私」や「苦しむ私」や「腹を立ている私」を「ありのままに」表現すれば聴き手にはツライだけだし、かといって過剰な演技でもって完全なる虚構の世界をたてるのもむなしいだけだという気が私にはする。彼女たちのパフォーマンスは、そのはざまにあって、絶妙なバランスをとっている、そういう点で完成されているという気がした。「作品」として独立した歌があるというより、歌ってギター弾いている姿がさまになっているというか。「心をこめて演じる」というのは、こういうことなんだと思った。
 「バーカ! お前らは本当にバカさ」(「バーカ!」という曲)なんて歌詞を、照れ隠しで変に冗談めかすのではなく、でも過剰にシリアスになるのでもなく、明るく颯爽と歌えるなんて、かっこいいよ。


 なんだか、結局のところ、長々と小理屈をこねくりまわしてしまった。


 25日に新しいアルバム(4枚目)が出るそうです。楽しみ。