リンダ リンダ リンダ


 昨日のことですが、『リンダ リンダ リンダ』を観てきました。


 もー、ここんところしばらく、まともに睡眠もとれない日々がつづいていたのだが、翌日はひさびさの休みで、しかしひと晩ぐらいゆっくり寝たってどうせ体力が回復しないのだ。そこが30過ぎるとキツイところである。
 だったら、気力ぐらいは充電させておきたい。そんなときに誘惑にかられるのが、ここ数日で稼いだぶんの金を新しいギターでも買ってすっぱり散財しちまおうかということなのだが、そう言えばあとでちょっとまとまった金が必要だったのだと思いあたる。じゃあ映画でも観ておくかと帰宅途中に『ぴあ』を立ち読みし、タイミングよく上映の始まるところにさっと入った。だから、期待してはいなかったのだが……。


 いやあ、よかったっす。大変に気持ちのよい映画だった。
 高校の学園祭まであと3日。オリジナル曲をやるはずだった女子バンドが、2人メンバーが抜けたため、急遽ブルーハーツコピーバンドをやることに。
 ボーカルは、友達のいなかった韓国人留学生。彼女は、バンドのリーダーと抜けたボーカルが言い争っているところをたまたま通りがかり、ケンカの当てつけに引きずり込まれる。「ソンさんバンドやらない?」と。
 また、骨折して出られなくなったメンバーのかわりに、キーボードだった子がギターにコンバート。
 3日後の本番に向けて、4人の女子高生たちが、深夜の部室に忍び込み、あるいは遠くの貸しスタジオまで出向き、寝る間も惜しんで練習にあけくれる。そんなストーリー。


 彼女たちが練習に打ち込み、友情を深めていく様子が、とてもさわやかに描かれていた。「友情」といったって、彼女たちを妨害するいやらしい「敵」「悪役」を登場させるわけでない。また、「困難」や「壁」の「克服」を前面に主題化するような、スポコン的友情の描き方もされていない。夜中などにただ一緒に集まって、歌い演奏し、また恋の話をしたりする楽しさが、彼女たちの心を通わせていく。その描かれ方がすがすがしく開放感があり、またユーモアにあふれていて、ほんとうに心地よかった。
 「リンダリンダ」や「僕の右手」など、ブルーハーツによる楽曲もよいのだけれど、劇中で「彼女たちが演奏するブルーハーツ」もかっこよくて、充分に楽しめた。もちろん、音は、主演の女の子たちではなく、誰かプロがかわりに演奏し録ったのを使っているのだろうけど*1、見栄えとしても、出演者のギターの弾き方、ドラムのたたき方が本格的にさまになっていてかっこよかった。きっと、ある程度の演奏ができるよう、相当な練習を積んだのだと思う。なんて、ロック・オタクな感想ですが。


 彼女たちが深夜に学校の屋上に集まってマッタリおしゃべりするシーンで、メンバーのひとりが大略次のようなことを言っていた。「こうやって一緒に話しているときが一番楽しくて思い出になるんだと思う。本番はきっと緊張して、後になったら何も覚えてないんじゃないか」。
 一瞬私は「それは、年取った制作者側の回顧的な視点であって、現にいま練習に打ち込んでいる彼女たちはそんなこと考えないんじゃないの?」と思った。でも、あとで考えてみると、楽しくて充実したときのまっただなかにありながらも、そうやって、失われるであろう「今」を「ふりかえって」せつなくなるのって、じつは若い頃のとてもリアルな感情だったんじゃないだろうかと思い直した。


 可笑しくてせつなくて、素敵な映画でした。
 私は頻繁に映画を観るわけでないので、これが珍しいことなのかどうかよく分かりませんが、観客もエンドロールが終わるまで誰ひとり立ちあがりませんでした。

*1:ベース(関根史織という人)だけは、出演者自身がプロだそうだ。