自動車絶望工場――乗る方にとっても

 トヨタ自動車と言えば、従業員に非人間的労働を強いることで昔から悪名高い企業だが、今度は顧客をもロボットに仕立てようとしているらしい。


飲んでますね?車が検知 トヨタ開発 目やハンドルの汗(asahi.com)

 トヨタが開発中のシステムは運転前と運転中の2段階で確認するのが特徴。運転前にハンドルを握ると付属のセンサーで手のひらの汗の成分などを分析、血液中のアルコール濃度を測定する。一定量を超えるとエンジンがかからない。さらに、発進と同時に車内のカメラで運転者の目の瞳孔の焦点が定まっているかを確認するとともに、ハンドル操作から蛇行運転でないかなどをチェック。複数の情報から車側が飲酒運転と判断すれば、自動で減速して停止する。


 これほど公然とユーザーをバカにしたシステムを開発するとは、さすがトヨタである。「判断」するのは「車側」なんだそうだ。
 こうした技術が実用化されていく社会に、なにか薄ら寒さを感じる。
 私は自動車を運転しないので充分にイメージしにくいところだけれど、乗用車というのはユーザーにとって私物性の高いものであるように見受けられる。自分にとって車が唯一プライバシーを確保できる空間だと言う人もいる。
 一方、最近では「飲酒運転の撲滅」とやらが公共的な関心事になっているらしい。トヨタの技術開発も、そういった「公共的」要請に応えようとするものだろう。しかし、プライベートな空間に、「飲酒運転撲滅」という、それ自体は否定しがたい「社会正義」が外側から侵入してきて内部に組み込まれていくというのは、相当に気味の悪い図だ。
 このシステムが実用化され実装された瞬間、ユーザーにとって「飲酒運転」という違法行為を働く自由は失われる。それは「自身の良心にしたがって法を守る」ことが不可能になるということでもある。