豊饒なる欠落

 ベース面白すぎる。夜更かしがすぎてしまう。
 もちろんCDをかけて、それに合わせて練習するということもするのだが、深夜ではそうもいかない。ヘッドフォンで音を聴きながら弾くわけである。かくして、ベースの音しか聞こえない、孤独な世界に閉じこめられる。
 となると、ドラムやリズムギターの音を脳内で補うということをするわけで、これが思いのほか面白い。
 たしかにギターだって、ひとりで弾くときは、脳内で他の楽器のパートや歌のメロディを生成したりもするのだけど、ギターはそれ自体で完成された楽曲を物理的に鳴らしてしまう。複数の弦が同時に鳴るわけだから、ひとつの楽器で、ベース音がありリズムも刻みメロディも鳴り、と一応アンサンブルを構成できてしまうわけだ。
 その点、ベースは物理的には音数が寂しく、それ自体で完結した楽曲を構成しえないだけに、想像的に充たされるべき欠落が豊かにある。