「てゆう」の詐欺師――ファミレス観察記

 2時半ごろ、遅い昼飯をファミレスで食べていたら、隣の席から「てゆうてゆう」てゆう男の話し声が聞こえてきた。
「……世間じゃあ勝ち組・負け組ってゆうけど、実際にはどうかってゆうと、負け組なんてゆう人はいないってゆう……。負け組っていわれる人は実際は負けてないんだよね。やればなんか出来るのにまだやってないで待ってるってゆう……。実際のところは待ってるからホントは待ち組ってゆう……」
 どっかで聞いたことのある話だなあと思いながら飯食ってた。
 隣のテーブルは、20代の男ふたりに30前後と思われる女ひとりの3人組。ファミレスやフロアの広い喫茶店で時間を過ごすことの多い私は、彼らがどういう関係なのかすぐにピンときた。男のなりで分かるのである。
 きまって男たちは2人組で行動する。濃紺か黒のピシッとしたスーツは、高価なのかどうなのかそういうのにうとい私には生地を見ても判断できないのだけど、おろしたての感じで、まあ着るものにはけっこう神経つかっているのだろうと思われるいでたち。シャツもやっぱり清潔でパリッとしていうのだが、こちらはきまって色か柄が派手である。ネクタイが、堅い会社のサラリーマンだったらちょっと着けられないだろうという目立つものであることもしばしば。茶髪だったり坊主頭にひげ生やしていたりピアス着けたりと、これまたスーツの着こなしと対照的に崩した感じの者が多い。
 昨今の「若手のやり手」のイメージというのは、こんな風なのかしらね。
 で、男2人と同席しているのは、女だったり男だったりするが、3人の席の配置はマニュアルかなんかで定められているのだろう。「やり手」風(なのかどうかよく知らんけど)の男2人は、残りの女(もしくは男)の真向かいと隣りにそれぞれ腰かける。
 この手の3人組は、ここでも前に何度か書いたことがあるのだが、おそらくマルチ商法の誘い手(2人)とカモ(1人)である。こういう3人は、午後のファミレスや喫茶店でよく見かける。事務所を持たずに、ファミレスなどで営業しているものと思われる。
「どのくらい稼いでるんですか」と女。真っ正面に座った男が「彼なんか、もうけっこうベテランだからすごいよ」ともうひとりの男に話を向ける。「いやあ、それ言っちゃうとマズイよ。おれの財布がねらわれるってゆう」と答える隣りに陣取った男。「諭吉さんが何十人かってゆう」
 そんなことを話しながら、書類を広げてクレジット・カードの申請手続きを進める3人(ローン会社もキックバックなどして一枚かんでいるのだろうか)。
 今回、聞こえてくる会話から分かったのは、どうも彼らは求人広告でカモを集めているらしい、ということ。なかなかせつない話である。
 うまい儲け話についつい乗ってしまう人というのは、強欲だったり、あるいは消費アディクションにはまっちゃって抜け出せなくなってたりというイメージがある。けれど、近ごろファミレスなどでよく見かける、2人組に1人の若い女性(や男性)が引っかかっちゃてるってゆう光景の背景には、就職難と雇用の不安定があるのかもしれない、としみじみ思った。
 今日見たのとは場所も人も違うのだが、以前書いた勧誘のやり口は、自己啓発セミナーかくや、というノリだった。それほどではないものの今回のも、「自己実現」をエサにして煽っている風ではあった。
 こういう「ビジネス」というのは、まあ破綻したり摘発されたり訴訟を起こされたりしない程度にまわっているのだろうからして、末端でババを引いてしまった人はなんらかの仕方で「損失」を「損失」と見ない心の働きをみずから作動させ、「自己防衛」をはかっているのだろうと想像する。「私はだまされたんじゃない」と。
 「私がわるいんだ」「自己責任だ」とみずからに言い聞かせることで、かろうじて保たれるようなプライドというのはあって、傷口がこれ以上広がるのを押しとどめようとして刃を自分に向けてるという逆説的な状況には見覚えがないわけでもない。てゆうと、なんか他人事ではなく、結局おれ自分語りしてんじゃん、バカみたいってゆう……。てゆう、じゃねえよ。くたばっちまえ、二葉亭四迷


■追記(5/10)
 きゃつら、これ↓ じゃないかしら。
未公開株への投資で、大学生の被害急増 マルチ商法的(asahi.com)(キャッシュ)


 喫茶店やファミレスでよく見かけるのは、引っかけてるのも、引っかけられてるのも、だいたい20歳代の男。とすると、モノはなんだろ? という疑問をいだいていたのである。化粧品や健康食品のエサでよく釣れるとも思えないし。
 株ね。なるほど。納得。うまいこと考えるものですね。

 首都圏の男子大学生は昨年、投資サークルに勧誘された。仲間から「いいもうけ話がある」と韓国の「一流ベンチャー企業の未公開株の購入を持ちかけられ、サラ金から借金して65万円を投資した。しかし、株を発行する企業名を明らかにせず、「上場する」と言った時期に上場しなかったため、今年2月、国民生活センターに相談した。


「一流」の「ベンチャー企業」って……。イメージできないんだが、どんなんだろ。
「城下町の趣が今ものこるニュータウン」とか「鑑定書付きレプリカ」とか「中道冒険主義」とか、そんな感じ? あ、叶姉妹か。