刑務所の待遇改善を!――俺が入るからさ

 山口の刑務所の飯はなかなかうまいらしいよ。


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 法務大臣は不満らしいよ。
asahi.com - 「刑務所がいい」 法相「社会復帰促進センター」に不満

 第1号として4月に開所した山口県美祢市のセンターを5日に視察した法相は、環境の良さに「受刑者にも人権があるからいいが、行き過ぎるとね」と不満な様子。「実刑判決には懲らしめの意味がなければならない。悪いことをするとつらい思いをするという方が再犯防止に意味がある」と述べて、「刑務所」と呼ぶべきだと強調した。


 これはじっくりマジで考察してみる価値があるのではないかと思っているのだけど、刑務所の待遇を徹底的にラディカルに改善して、シャバよりずっと快適な環境を作り出してみてはどうだろうか。革命の可能性は刑務所にこそあるんじゃないだろうか。
 飯をうまくするのは当然として、各房は囚人のプライバシーに配慮して完全個室、看守による監視も排する。もちろん冷暖房完備。ネットに接続されたPCも各人に一台ずつ割り当て、囚人の要望を聞いて図書館の蔵書を充実させ、DVDや音楽CD、ポルノ等も自由に借り出せるようにする。私としては個人的にギターやピアノ、バンジョー三線などの楽器をいじくれる施設なんかもあるとうれしいな。あと、酒や煙草も自由にたしなめるといいね。囚人どうしが交際交流するのも自由。
 刑務所内経済を維持するための懲役は必要だろうけど、それは我慢するよ。ただし、各人は各人の必要に応じて働き、各人の必要に応じて受け取るのが原則。「働かざる者食うべからず」などというシャバの原理は、ここでは適用されない。
 囚人たちは――現状ですでにそうなのだが――市民権から自由でなければならない。ここが決定的に重要なポイントである。市民権というものは、市民を包摂して外国人・難民を排除することで成り立つ旧社会の悪弊にほかならないのだからし*1、われわれ囚人にそんな古くさいものは要らない。国籍や血統にかかわらず、万人に――法さえきちんと犯せば――囚人になる権利があるのだ。天皇陛下だって、望めば囚人になれる。ていうか親愛なる明仁さんはすでに囚人みたいなものだけど。しかし、新しい刑務所には、天皇陛下には認められていない行動と思想・言論の自由がある。なにごとかを象徴するなどという鳩や旗みたいなめんどくさい義務も課されずにすむ。
 新しい刑務所では、残念ながら、法務大臣が期待するような「悪いことをするとつらい思いをする」という意味での「再犯防止」の機能は果たせないけれども、囚人たちが「無慈悲で恐ろしいシャバに放り出さないでください。一生この刑務所で暮らしたいんですぅ」と泣きつくくらいに刑務所の環境を快適にすれば、結果的に「再犯防止」の大目的は達せられるのだからして、問題ないじゃん。
 快適で自由になった刑務所へと自発的な受刑者が殺到することで、刑務所はガン細胞のようにあちらこちらへ転移し、いつの間にかシャバを飲み込む。
 私は子どものころ、井上ひさしの『ブンとフン』というロマンティックな作品にいたく感激したのだけど、その物語の結末は刑務所がユートピアへと反転するというものだった。この作品では、十分に構想されなかった井上的ユートピアが、何年か後の大作『吉里吉里人』へとつながっていったのだと思われる。あとで時間のあるときにゆっくり読み返してみたいと思う。

 テレビの画面の人の波は、さっきよりぐんとふえていた。アナウンサーが絶叫した!
『いまや、一億総泥棒であります!』
 歌声にかきけされて、アナウンサーの声はきこえなくなってしまった。


  盗みましょうよ 盗みましょうよ
  権威 常識 金銀 ダイヤ
  みんなで仲よく 盗みましょうよ
  ブンにならって 盗みましょう!


  いやなやつから いやなところを
  わるいやつから わるいところを
  気高い方から その気高さを
  上品な方から その上品さを
  お金持から そのお金を
  地主の旦那の その土地を
  企業主から その工場を
  軍隊からは その武器を
  貧しい人から その貧しさを
  悲しむ人から その悲しみを
  重病人から その病いを
  ホラ吹きからは そのホラを
  でべその人から そのへそを
  学者先生の その学問を
  すべての権威から その権威を
   そしたらみんな
   ただの人間になるはずだ
   ただの すばらしい人間に
   さァ!
  みんなで仲よく 盗みましょうよ
  ブンにならって 盗みましょう!
井上ひさし『ブンとフン』新潮文庫asin:4101168016


 こんにちから見ると、この1970年に書かれた作品の、「人間」という理念への絶対的な信頼と楽観主義は甘っちょろくも思えるし、「ホラ吹き」は「ホラ吹き」でべつにいいじゃねえかよと思ったりするのだけどね(だいたい井上氏こそ大ボラ吹きじゃんねえ)。

*1:その意味でシャバの住人こそ、各国家および国家間システムに監禁されていると言うべきなのだ。