くだらない苦しみ

 うぐー、苦しい。昨夜からずっと鈍く重苦しい痛みが断続的に襲ってくるのである。ぜんぜん通じない、というわけではないのだが、あまりくだらない、といえば、いつもよりくだってない気もする。
 昼間はベルトの穴をふだんより1つか2つぶん緩めてすごしていたのだけど、それでもやや窮屈な感じだった。ベルトの革がひとりでに縮んで短くなる、ということは考えにくいのであって、すると腹のほうが膨張していると考えるのが妥当であろう。
 となるとやっぱり、これが話によく聞くところのアレなのだろうか。最近は果物をよく食っているのだがなあ。
 この苦しみは、私にとって未知のものではなく、たしかに幾度か経験したことのある種類の不快さなのだけど、いままではこの症状を「言葉で名指す」ということをしてこなかったのである。身体的な苦痛という個別的なことがらに名を与えようとするときに頭をかすめるのは、私がいまあてようとしているその語が、はたして私の感じている苦しみにふさわしい言葉なのだろうか、という疑念である。
 たとえばの話、私が「シクシク痛む」と形容しようとする経験が、他者が同じく「シクシク痛む」と形容している経験とはたして等価と言えるのか、いまいち自信が持てないのである。もしかすると、あなたがふだん「ゴロゴロ痛む」と言い表しているのに相当する痛みを、私はまちがって「シクシク痛む」と形容してしまうかもしれない。「肩がこる」というのも、よくわからない。わたしはじっさいのところ、あなたが「肩がこる」と言うときのような「肩をこる」という経験をしたことがあるのだろうか。ほんとうに私は「肩がこっている」のだろうか。
 これと同じように、私はいま、いわゆるところの「便秘」にあたる症状に苦しんでいるのかどうなのか、判然としないのである。ああ、神様。どうか教えてください。私は便秘なのですか。ああ、苦しい。