愛知県警イラン人犯罪組織壊滅対策本部

 asahi.com「容疑のイラン人4人逮捕、客付き携帯21本押収」という記事の書き出しに、「愛知県警イラン人犯罪組織壊滅対策本部は……」とあったので、驚いた。
 なんと愛知県警はイラン人チームを組織して犯罪組織壊滅の任にあたらせているのか。「正義の味方イラン人」対「悪の犯罪組織」! がんばれイラン人!
 と思ったら勘違いでした。よく記事を読んでみると、どうも「愛知県警所属のイラン人捜査官による犯罪組織壊滅」チームではなくて、「イラン人からなる犯罪組織を壊滅するために愛知県警に置かれた(日本人捜査官からなる)対策本部」という意味らしい。
 それにしても、「愛知県警イラン人犯罪組織壊滅対策本部」とはややこしい名称である。漢語は難しいからなるべく避けた方がいいのに、無理して使うとこういうワケワカランことになるのである。
 だいたいね、「犯罪組織壊滅対策」って何だよ。これ普通に読むと、「犯罪組織壊滅」に対して「対策」を講ずるということになっちゃうよ。つまり、「愛知県警」としては「犯罪組織壊滅」を遺憾なことと考えているのであって、だから「壊滅」しないようにしかるべき「対策」をとらねばならぬ、そのために「対策本部」を設けて慎重に捜査にあたる所存である。と、そんな意味に解されてしまうのである、字義どおりに読めば。
 それはともかくとして、捜査機関が「イラン人犯罪組織壊滅」などと人種主義丸出しの語を看板に掲げたりして、いつもながら警察のやることはひでえなと思ったのである。この記事の容疑者も明らかに別件で逮捕されているし、おそらく名古屋では覚醒剤取引きと無関係な「イラン人にみえる」おおぜいの住民たちが、おまわりによるあの不愉快な職務質問(恫喝をふくむ)をくらっているのであろう。
 捜査機関というやつは、本質的に人種主義なのだろう。私の在日コリアンの知人からも、いかにサツどもがつね日ごろ朝鮮人を目のかたきにしていて、「事件」とも言えぬことがらにまで、くんくんくんくん嗅ぎまわりにやって来るか、という話は聞く。
 警察という組織を廃止しない限り、おそらくわれわれは人種主義から自由になることはできないのではないだろうか、というようなことを最近よく考える。警察というのは、善良なる市民どもを守るのがそのつとめである。ということになっている。まあ、それはいい。しかし、警察は誰から善良な市民のみなさまを守ってくださるのであろうか。イラン人? 朝鮮人? 共産党員? ロリコン? フィギア萌え族? いずれにしたって、捜査機関は「犯罪防止」「予防」という名目で、市民社会にむけて、あるいはみずからの捜査員たちにむけて、「危険分子」を表象する必要に迫られているのだ。
 私の住んでいる町では、小学校の下校時間ともなると、つぎのような防災無線が流れる。

不審者による犯罪から、子どもたちの安全を見守っていただけるよう、お願いします*1


 さて、これは誰にむけられたメッセージなのだろうか。「不審者」にむかって「不審者による犯罪」から子どもたちの安全を見守れと言うのも、さすがに変な話であるから、これは「不審者」ではない善良な市民のみなさまにむかって語りかけているつもりなのだろう。
 では、「不審者」とはいったい誰のことなのか。私はこのアナウンスを聞くたびに、いつも不安になる。オレは「善良な市民」なのだろうか。オレは「不審者」ではないのだろうか。このとき、自分は疑いなく善良な市民なのだ、だから不審者ではないのだ、さあ不審者の犯罪から子どもたちの安全を見守ってやろう、などと考えるとすれば、私は警察同様にたちまち人種主義を必要としてしまうであろう。人種主義者になってサツの片棒をかつぐくらいだったら、私は不審者でいいよ。
 ああ、おれはイラン人でかつ朝鮮人ロリコンのフィギア萌え族の変質者でいいよ。覚醒剤だって売りさばいてやるし、金正日のスパイだってやってやらあ。しかもロリータコンプレックス共産党員だ。あと、イスラム教徒にも見えるようにあごひげも生やさねえとな。それからな、創価学会にだって……あ、これはちがった。

*1:以前は、「全国各地で不審者による事件が多発しております。子どもたちの安全を見守っていただけるよう、お願いします」というアナウンスだったのだけど、さすがにこの根拠のないデマ文言は削除されたようだ。