NHK の集金人が来た

 NHK に対する風当たりはまだ強いのだろうから、徴収する人も苦労は多いのだろう。すごく低姿勢だった。ちょっとかわいそうではある。

「わたし NHK の者でございますけれど、あのう、受信契約のほうがまだお済みでないようなので、うかがいました」
「あ、わたしテレビ観ないんで……」
「いや、観る観ないにかかわらずにですね、受信契約は……」
「ウチ、ないんですよ、テレビが」
「あ、さようですか。機材がないのですね。それは失礼いたしました。お忙しいところ、お邪魔いたしました」


 こんなに簡単に引き下がるとは、なんだか拍子抜けするよ。
 何年かまえに来た人は、もっとしつこかったんだけどなあ。

「こんにちはー。受信契約がお済みでないようなので、まいりました」
「ああ、しません」
「え?」
「だから、わたしのほうは契約するつもりありません」
「あのですね、受信契約というのは、テレビを持っているかた皆さんにしていただくことになっているんですね。ですから……」
「いや、要りません。テレビ観ないし」
「いや、ですから観なくてもですね、テレビを持っていれば受信契約は……」
「じゃあ、テレビないです」
「ほんとですか? テレビがなくてもパソコンとかで観られる環境にあるかたは、契約していただくことになっているんですけど」
「観れません」
「そうですか。ではしかたないですね。今後テレビをご購入することがありましたら、こちらの番号までお電話していただけますか?」
「買いませんけどね」
「あ、それからお名前をお聞かせいただけませんか?」
「どうして、契約しないのに名前が必要なの?」
「それは、表札が出てなかったものですから、お名前をおたずねしたいと思いまして」
「じゃあ、山田です」
「……。山田さんですね」
「はい、山田太郎です」


 とまあ、数年前、こんなふうに、ぜんぜんかみ合わないやりとりをしたことがあったのだが、「うちにテレビがない」というのは、ほんとうである。最初からそう言えば話はすぐ済むんだろうけど、私は友達がいないので、お客さんが来るとうれしくなっちゃうのね。会話を長引かせよう長引かせようとして、つい遊んでしまう。
 これがたとえば天理教の人とかだったりすると、けっこう友好的に接することができる(お祈りしてもらったりしてね)のだけど、NHK とか国勢調査の人とか、国家権力の手先が相手だと、おちょくってやりたいといういたずらごころがわいてきてしまうのだ。
 そういえば、国勢調査も「個人情報保護」とのからみからか、あんまりしつこくなくなったよ。十何年かまえに来たときは、調査票にすぐそれとわかる嘘八百を並べ立ててやったのだけど(中国人の留学生が同居していることにしたり、職業の欄に「ペテン師」と書いたり)、なんとあれは回収しに来る人(自治体から依託を受けた町内会の人らしい)がちゃんとチェックしてたのね。たしか前回からはさすがにやらなくなったと聞いたけど。あとから、「この記述はほんとですか?」とか聞きに来てうざかった。