夢のカリフォルニア


 昼飯に入った韓国料理屋で The Mamas & The Papas の「夢のカリフォルニア」(California Dreamin')がかかっていた。むしょうに懐かしくなって、CD屋に寄って中古のをみつけて買った。2枚のディスクにアルバム4枚分が収められており1899円(中古価格)、というお得な買い物、だったかな。
 聴いてみた。懐かしい。はじめて聴く曲もけっこうあるんだけど、どれもこれも懐かしい気がするのは不思議である。


 50年代や60年代のアメリカン・ポップスは、知っている曲も知らない曲も、みんな知らない気がしない。ずっと昔から、おかしな言い方だけど、生まれる前から、ずっと知っていたかのような親しさを感じてしまう。子どもの頃、実家で父親が日曜なんかによくアメリカのオールディーズを聴いていたというのもあるんだろうけど。
 子供の頃はなんかダサイなあなんて思っていたし、のちにパンクに夢中になったりもしたけれども、考えてみればパンクって50年代60年代のポップスへの回帰という要素は大きい。ジョニー・サンダースザ・クラッシュラモーンズも、古き良きポップスの落とし子だという感じもする。


 で、ママス&パパスだけど、何と言っても、ママ・キャスことキャス・エリオットがすばらしい。つやがあって力強くのびる声。迫力があるんだけど、声域も声量もまだまだ余裕がありそうな印象を聴き手に与える。懐が深いっていうか、スリリングというより聴く者に安心を与える歌声。
 コーラスのグループであるわけですが、アレンジはロックっぽい曲が多い。この人たちのことをよく知らなかったので、もっとR&Bな人たちなんだと思っていたんだけど、とおしで聴いてみると、むしろロックなんだね。


 それにしても、この人たちは楽しそうに気持ちよさそうに歌っている、それが聴いている方にも気持ちよい。実際にどうなのかなんてことは分からないけれど、本人たち自身が満たされているという感じを、かれらの歌は与える。
 60年代の後半といえば、日本なんかも今よりずっと貧しかったわけで、当時の聴き手は、ラジオから聞こえる「夢のカリフォルニア」を、「豊かで自由なアメリカ」への憧れと羨望を胸に抱きながら聴いてたんじゃないかなあ。
 そう言えば、私が子どもの頃住んでいた町に、朝の7時から11時ころまで営業する、今でいうコンビニができたことがあった。80年代の前半だったと記憶するが、セブン・イレブンなどがわが町まで進出してくるのはしばらくあとのことで、11時まで開いている店ができたというのは画期的なことであり、事件だった。その店の名前がたしか「夢のカリフォルニア」だったような気がする。
 それはともかく、私の親ぐらいの世代の人たちは、若かりし日にそんなふうに輝かしい「アメリカ」の、「カリフォルニア」の像を重ね合わせながら、「夢のカリフォルニア」を聴いたんじゃないかなあ、と想像してしまうですよ。そして私はかれらの肩越しに、かれらの夢みる「カリフォルニア」を覗き見る気持ちで聴いてしまうですよ。それもまた楽しからずや。