憂鬱な音楽

 前にリファを見ていたら、「死にたくなる歌」という語で検索してここに来ている人がいて、この人は何を探しているのだろうかと不思議に思った。それはともかく、音楽で聴く人を「死にたく」させることは可能なのだろうか、ということはおもしろい問題かもしれない。




 「詞」によって死にたくなるということであれば、想像できなくもない。
 たとえば、そんな歌を聴いたことがあるわけじゃないけど、「お前が生きててなんになる? 生きてる価値なんてあるのかい? お前なんか生まれてこなかったらよかったのに。死んでみたら? 早く死ねよ。死ね死ね死ね死ね……」などという意味のことを、あたかも歌い手が私のことを知っており、その私の行状や性格を的確に指摘するかのように歌う歌を、心理的に不安定なときに聞かされたら、やばいかもしれない。
 しかし、詞の意味ぬきの「音」だけで人を死にたくさせることはできるだろうか。そんな音楽を想像するのは難しいのだが、私にとってそれに近いものがあるとすれば、DOOBIE BROTHERS だろうと思う。こうなるのは私だけなんだろうか。
 彼らの代表曲の "LONG TRAIN RUNNINNG" などは、そんなことはないのだけど、私が唯一持っているベスト盤をとおしで聴いていると、なんとも気が滅入る。気が滅入るものだからめったに聴かないんだけど、なぜ気が滅入るのか考えるために今聴いていて、やっぱり気が滅入っている。
 彼らの曲はキャッチーなんだと思うよ。キャッチーだというのは、聴いていて「あれ?」と思うような瞬間があるということで、彼らの楽曲はコード感にしろメロディにしろ音色にしろ、そういうちょっとした違和感をおぼえさす要素をたくみに出し入れしている感じはする。つまり、こっちに入ってこいよと誘惑する魅力には満ちているのだと思う。
 しかし、一方で、私にとって彼らの音楽には入っていけない感じをいだかせる何かがある。没入をこばむよそよそしさというか。けっして退屈な音楽ではないと思うのだけど、けだるさをおぼえてしまう。ただし、けだるさというのもひとつの快にはなりうるのであって、かならずしもそれがよそよそしい冷たさをもたらすということではないのだろう。
 なんにしても気に入らん。「出口がない」のであればそこに横溢するエネルギーがこめられることもあるだろうが、彼らの音楽には「入り口のなさ」を感じてしまうのだ。誘惑するくせに。

 というか、よく考えると、これって恋の始まりのような感情? 違うよね。違うよ。
 気に入らん。