陰鬱な午後

 ひさかたぶりにギターを弾いた。アンプには繋がなかったけれど。
 かれこれ1ヶ月あまりほとんど触りもしなかった。こんなにギターから遠ざかったのは、ここ10何年か、ギターを始めて以来なかったことだ。
 すっかり錆びついて弾力のない弦を張り替える。チューニングする瞬間が、私は好きだ。やっぱり機械なんか使わずに、音叉で合わせるのが筋であろうと思う。音叉が見当たらなかったら、電話機をオンフックにする。プーという音はGの音。
 ギターを弾く目的は何だろうか。曲を弾くためにチューニングをするのであれば、チューニングは手段だ。けれども、音が合いきらないうちに曲を弾いたり和音を鳴らしたりするのは、チューニングするためにそうするのでもある。チューニングが目的であって、曲を弾くのは手段。というか、弾くためにチューニングするために弾くためにチューニングするために弾くために……という感じだ。新しい弦は弾いているうちに音が下がっていくので、曲を弾いてはまたチューニング。狂ってるのに気づいたら、うれしい。また合わせる。そうしているうちだんだんと弦が楽器と、弦が指とゆっくりなじんでくる。
 特にひさしぶりに触るときほど、だれが聴いているわけでもないのに、気取った曲を弾いてしまうのはなぜなんでしょう。ヘンドリックスの Long Hot Summer Night を弾き、同じく Little Wing をいい加減に弾く。うふふ、ロケンローな俺。ジミヘンだぜジミヘン。
 ツェッペリンの Rock And Roll のリフだけ弾き、これはひとりで弾くと楽しくないなあ、かわりに「天国の階段」を端折りながらデタラメに弾き、ひでえ曲だよな、ツェッペリンもひよったんだよね、などとロケンロー風な心にもない戯言をつぶやく。よい曲ではないか。ガンズンローズィズの Sweet Child Of Mine のパペポパピポパポいうリフだけ弾いて、あ、不恰好だけど一応まだ弾けるぞと安心し、安心したらばビートルズなども弾いてみる。ジョージ・ハリソン作曲の Something など。コード進行が似ているので、つぎに「君の瞳に恋している」を弾く。調子にのってワムの Last Christmas にしんみりしてみたり。
 ここら辺で、あれワタクシはロケンローラーのつもりだったよねと恥ずかしく思い、ベンチャーズのパイプラインなど弾き、なんか違うなあ、ロックンロールには違いないのだけどなんか違うと思い、じゃあロックってなんだ、これか、とマニックスの You Love Us*1を歌いながら弾いて、同じくマニックスMotown Junk(→YouTube の動画。マジ最高。マジロック!)を興奮して弾き、連休最終日だったね今日は、と思いだした。

*1:合州国を愛せ」ではもちろんなく、ユー・ラヴ・アス、「僕達を愛してね」という歌です