Jimi Hendrix / Day Tripper

 短い生涯におびただしい数の名曲名演を残したヘンドリックスの諸音源において、これが特筆すべきというほどの物件ではないのもたしか。それでも、聴いて「やっぱジミヘンすごい」と再確認する音源──夭逝した天才は「再確認」や「再発見」ばかりされるのね──ではあると思う。少なくとも、ビートルズの名曲と、ジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンスの演奏を楽しめて、2度おいしい。
 それにしても、生前「俺の葬式では、俺の好きな音楽をかけて楽しんでくれ。でも、ビートルズはやめてくれよ」と語っていたと言われるヘンドリックス師。そんなこと言って、楽しそうに演ってるじゃないか。
 何と言っても、この人のギターは音がよい。ノイジーという点では刺激が強いのだが、その一方で柔らかみもある。Day Tripper の例のリフは、5,6弦、つまりは低音弦中心に、開放を含めた低いポジションで弾かれるのだが、どこかで読んだ情報によると、ジミは5,6弦だけ普通よりやや細めの弦を用いているらしい。そう言われてみると、たしかに低音弦がよく振れているようだ。しかも、ジミヘンは普通より半音ほど下げてチューニングする人なので、なおさら大きく弦が振れるということもあるのだろう。「硬い+枯れた」をストラトキャスターの特性とすなら、ヘンドリックスの低音は、ギンギンに硬いわけではないけれど、それだけに枯れた渋みがいっそう増して聞こえる、というふうに言えるだろうか。蝿の羽音のようなブーンというのが、耳に柔らかく入ってくる。
 そして、驚異的にコントロールされたノイズ。
 たとえば、ピックが弦をたたくコンコンという音。弦の振動音を聴かせるべきメインの音とするならば、それに対し、知覚できないほどのほんの一瞬だけ先駆けるコンコンいうアタック音は、ノイズと言ってもよいだろう。
 また、もちろんのこと、フィードバック。ワウの踏み加減でフィードバックを起こしているのでしょうかね。短く単発的にキーンと1オクターブはね上がるのは。
 それに、単音から和音への移行。比較的輪郭のはっきりした低音弦による単音。蝿の羽音。そこに高音弦の振動が加わっていき和音が構成されるときの、「ベシャッ」とつぶれるような音色。
 というような、多重多層の音を自由自在に操るのが、ジミ・ヘンドリックスのすごさなのだろう。と、よく分からないながらもワタクシメは思う。そんなことを意識しながら電気ギターを聴くようになったのは、たしかこのジミヘンの弾く Day Tripper のリフを聴いて以後だったと思われる。
 それまでは、The Jimi Hendrix Experience というバンドがすごいって、それは Mitch Mitchell のドラムスがすごいんでしょ、と思っていたのだ。うかつであった。
 ジミヘンも、すごい。みっちゃんみっちみっちミッチ・ミッチェルも、むろんすごい。そういうことであったのだ。
 ミッチさんは、最高のドラマーですね、とやはり思う。破天荒。そう、「破天荒」という言葉はこういうのに使うのだな。この言葉を作った昔の人えらい。ほんとうにムチャクチャにたたいているように聞こえる。やりたいようにやってるんだぜ、とでも言うかのような余裕。何にせよ、やりたいようにやれたらよいのですけど。うらやましいことである。まぶしいことである。ドコドカドドドカドカン。
 ビートルズはこの曲をスマートに演ったと思うけれど、エクスペリエンスの演奏はソウル(というのは解ったような解らない言葉だが)。ジミのシャウトといい、コーラス(ミッチがレノンのものまねを披露している!)といいソウルフォー。先に述べたようなギターの彩り豊かさや、ミッチのラフで派手なフィルイン。この曲が本来もっているエキゾティックさ(いったい誰の視点からのエキゾティックなのかは分からないが)を最大限に引き出している。熱狂、狂騒、祭儀。
 大音量でかけて、牛一頭をくべた火を囲み、大勢で踊ったら楽しかろう。