お前も蝋人形にしてやろうか

 デーモン小暮閣下であります。


YouTube - 聖飢魔Ⅱオール悪魔総進撃!The Satan All Stars #怪奇植物


 私はそのへんぜんぜん明るくないのでちゃんとしたことが言えませんが、発声とか動作に歌舞伎や能のような趣があります。また、この人のMCは、ちょっとした噺家の芸を見ているようでもあります。
 この人たちが現役でバリバリ活躍していた頃、私は小学生の高学年か中学に入りたてかそのあたりで、「キワモノ」とか「コミック・バンド」とか、もちろんそんな言葉は知りませんでしたが、そんなふうに理解していたと記憶しております。しかし、今になってこう動画を観てみるに、昔とは違った印象が得られ、新鮮な気持ちがします。
 ところで、ネット界隈では(もともとは芸人の業界用語なのでしょうが)、「ネタ」という言葉をよく目にするのですが、あれはどうも好きでありません。どうやら「マジ」でなければ「ネタ」であるということのようですが、わざわざ「マジでない」ことをエクスキューズにして担保される「お笑い」のなにがおもしろいのでありましょうか。あるいは、これは「ネタ」であるとのタグを対象に貼りつけた上で笑ってみせるという行為を見るにつけ、「きみは本当に笑っているのかね」といった疑問がわくのでございます。笑うときぐらいはひとりで笑いたいものだと思います。それは言うほど簡単なことではございませんが。
 また、全部が全部そうだとは申しませんが、「だからこれは冗談なんだってば」とのエクスキューズ付きの笑いには、攻撃的ないし嘲笑的なトーンが含まれるものが多いように思います。私などはひとつにはそれが嫌でテレビからほとんど離れてしまったのですが、テレビのお笑い番組などは「マジでない」ことを免罪符に、いじめと差別が公然と幅をきかせているよう見受けられます。
 さて話を戻しますと、昔、私は聖飢魔Ⅱというバンドをいまふうの言葉でいえば「ネタ」と解釈していたように思うのでありますが、いまになって観るとどうもこれは「ネタ」と「マジ」の二分法で割り切るのは妥当でないような気がいたします。
 あるものごとを「ネタ」として見るということは、換言いたしますれば仮面の内側に「素顔」を想定する態度であります。そういう観点からすれば、対象を「ネタ」と見るか「マジ」と見るかに、大きな違いはございません。いずれも、「素顔」なるものが「存在している」という確信に支えられた鑑賞態度であることに変わりないからです。
 なるほど「ネタ」として対象を見る場合には「素顔」が「潜在している」と考えられており、「マジ」と見る場合にはそれが「顕在している」と考えられているという差異はあるかもしれません。けれども、そこでの「潜在/顕在」とは相対的な差異、すなわち程度の問題にすぎません。「素顔」とは、そこに現前しているそのままにおいて現われているものとしてではなく、「解釈」を通して到達すべき何ものかとして、もしくは、ある瞬間「仮面」がはがれ落ちることによって「図らずも」露呈するものとして考えられているからであります。それは「隠れている」ことを前提にしているのであります。
 しかし、小暮閣下はその意味での「素顔」を持たぬように思います。閣下自身、しばしばおっしゃる通り、あのけばけばしくメイクアップされた顔そのものが《素顔》なのであって、仮面に隠された顔としての「素顔」というものを想定するのはやはり難しいように思うのであります。
 試みに、こういう仮定の場面を想像してみましょう。どこかの週刊誌が閣下の秘められた私生活を隠し撮りして、誌面で暴露したとします。その図は「そば屋で天ぷらそばをほおばるデーモン閣下」でも「馬券売り場に並ぶ木暮閣下」でも「キャバクラをご視察なさる閣下」でもよろしい。写真に映ったのが、メイクアップしていない「世をしのぶ仮の姿」の小暮氏であったとして、はたして私たちはそこにスキャンダラスな感じをいだくでありましょうか。
 私が思いますに、それはスキャンダルにはなりがたい。なぜなら、閣下のパフォーマンスには、「素顔」を知りたいという観客の欲望を煽る要素――何かを暗にほのめかす態度、何かを隠すかのようなもったいぶった仕草――がそもそもないからであります。ぜんぜん謎めいてなんかない。そこが凡百のヴィジュアル系バンドとの決定的な相違ではないかと思います。
 自意識や自己陶酔とは無縁の貫徹されたショーマンシップ、そして練りつくされ追究された様式だけがそこにある。そういった意味では、彼らは、キワモノどころか、正統的なヘヴィメタル・バンドと言えるのではないでしょうか。


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 こちらの動画も必見であります。「お前も蝋人形にしてやろうか」のあれです。
 しかし、この人たち、ずいぶんと勤勉な悪魔ですね。日々の技術的鍛練と徹底的なリハの努力がなければ、ヘビメタバンドなんてやってられないのでしょうけれども。