あだちるなゆめ

 昨日見た夢。
 年老いた父が、私に大声でののしられて身を縮めている。
 子どもの頃、親父によくぶたれたが、その多くには殴られる必然的な理由などなく、たんに怒りを爆発させたものにすぎなかった、などということを私はわめいている。父は、いやあそうだったかな、理由なくひっぱたいた覚えはないけどな、と小声でもごもご弁解するが、私に声の大きさと勢いで圧倒され、情けない顔をして身体を小さくしている。
 と、突然、父が壊れる。薄くなった髪を振り乱しては、大音量でレコードをかけ、家の中を歩きまわり、部屋ごとの屑籠をひっくり返してまわる。
 私は近所の目を気にして父に言う。いやあさっき言ったことは真に受けないでくれよ、第1に子どもの時分の判断能力なんてあてにならないんであって、たしかに殴られたのには必然的理由があったのかもしれなくて、ただ俺は子どもだったんで理解できなかったのかもしれないし、第2に俺が自分のガキの時代に言及するということは、現時点からそうするのであって、ということは過去を現在の視点から構成するということであって、そこには多分に嘘や誇張が含まれるであろうことは確実で、そもそも殴られたことなんてなかったのかもしれない。
 こういうことを言って父を説きふせようとするのだが、私に破壊された父は聞く耳を持たず、家中の屑籠をひっくり返して歩く。