Black Grape / Kelly's Heroes

It's Great When You're Straigh
 95 年の作品。何ヶ月かごとに引っぱり出して聴くということを、ずっと続けているのだけど、もう 10 年以上もたったのか……。
 Happy Mondays の Shaun Ryder 先生が、いったんマンデーズを解散して*1「シラフでやる」をコンセプトに結成したのが、Black Grape というグループ。アルバム・タイトルも "It's great when you're straight...Yeah" というもの。英語よくわかんないのですが、たぶん「おい、シラフってすげえぜ、イエーイ!」といった意味なのでしょうね。年季の入ったドラッグ経験あってこそ言える、ステキにぶっとんだお言葉です。
 で、聴いてみて思うのは、先生ほんとにシラフなんですか、ということである。たしかに、Happy Mondays のよれよれ感とうってかわり、やたら健康的な多幸感とバイタリティにあふれた作品群に仕上がっている。しかし、この過度のノリノリさはなんか変だ。マンデーズ時代にもまして強烈にアッパーなクスリ使ってませんか。シラフってそういうものっすか。
 私事で恐縮だが、僕は自分ってけっこう不幸せなんじゃないかしらとつねづね思っている人間なので、幸せそうに充ち足りた顔してるヤツをみかけると、ぶっ殺したくなる、とは言わないけど、水をかけてやりたいな、ぐらいは思うタチである。ところが、このアルバムそういう陰鬱な気分の者でも踊りださせる魔力みたいのがあるような気がする。
 僕が死んだとき、かりに葬式なんてものをやってくれる人がいるのであるならば(いないと思うけど)、ぜひ本アルバムを大音量でかけてほしい。もし、式に出席してくれる人がいるのだとしたら(いないと思うけど)、君が踊りださずにいられるのか、僕はそばに立って見ていよう。正座して尻の下に重ねたつま先を動かさずにいられるだろうか。僕はひとりひとり見てまわろう。




 さて、本日とりあげる "Kelly's Heroes" は、アルバム中でももっともアッパーな逸品。
 まさに多幸感あふれる、いわゆる「ゴキゲンな」と形容されるべき曲なのだけど、なにか「深さ」を感じさせてしまうところが、英国的*2だなあと思う。比較するのも変だけど、合州国西海岸のパンクのようにはならない。
 そして、この曲を聴くと、「深さ」というものに「神秘」などないのだという気に僕はなる。上から塗り重ねる。その上にもっと塗る。さらに塗る。塗って塗って塗り重ねたら「深く」なる。それだけだ。
 落差は大きくないものの、ゆったりと腰をゆするベースとドラムのリズム。ギターのカッティング、上から重なる。ギターにやや遅延して引っ掻くようなキーボートの和音重なる。その上にショーン先生乗っかって揺れながら歌う。サイケデリックなギターゆらゆら鳴る。
 共振する多層体。しかし、この曲において層の上塗り、乗っかりは、遅延として現われる。その遅れ、時間差が、グルーヴを生む。
 かりに「遅れ」を意識することなどなく、最前線で風を切るような感覚、「いま・ここ」しかないような感覚を「幸せ」と呼ぶのだとすれば、この曲のグルーヴはぜんぜん「幸せ」じゃない。つねに「いま・ここ」は遅れてあるのだから。
 かといって、鬱々とした「取り返しのつかなさ」感のようなものを感じさせるわけでは全くない。僕は曲に参加して、ベースの上からギターを塗る。この時点で僕は遅れている。そしてギターになった僕は、後ろから遅れてやってくるキーボードによってただちに塗りつぶされる。しかし、踏みつけられた次の瞬間、僕はまた上に立って塗り重ねている。そしてまた踏みつけられる。かようにして、僕は「取り返す」ことをくり返しながらも、落下し続ける。支配などせぬ。支配などされぬ。僕は上に上に塗り重ねながらも、落ち続けるのだ。息子を去勢したりせぬ。親父に去勢されたりもせぬ。産むことも産まれることもごめんだが、生成はやめぬ。萎えたそれを肯定し、踊れ。振れ。別に隠すことなんかないじゃないか!




 また、なに言ってんのか分からなくなった……。思ったのと違ったことを書いているような気がする。途中から脳が混線して、別に向けられるべき関心が混じってしまったかもしれない。まあいいや。

*1:その後フジ・ロックで復活したんだったよね。

*2:彼らはマンチェスターの人たち