Led Zeppelin / Thank You

 心地よいトリップ感を味わえる一品。
 John Paul Jones 奏でるハモンド・オルガンおごそかで、Jimmy Page のギターの鳴らす和音きらびやかで、Robert Plant の歌声うるわしい。ただしっとり演奏したのだとしても、それはそれで名バラードとして成立しそうなものである。
 ところが、ここに別種の時間を持ちこむのである。この演奏には異質な2つの時間が流れている。そのことが軽いトリップ感をもたらしているように思う。
 Plant の歌声は、オルガンとリバーブのかかったギターによる、やわらかく広がりのある和音に囲まれて、ゆったりとした時間を演出する。ところが突如、Jones 先生のベースがこれをせかすように躍る。呼応するようにしてドラムスやギターも躍り出す。局所的に加速したリズムが、聖歌のようなゆるやかな流れとの間に、渦を生じさせるかのようだ。
 とはいえ、この間テンポが変わるわけではなく、また、これに引きずられるようにして歌が激しくなる、ということもない。あくまでも、ゆっくりと流れる時間が依然として一方にあり、これと併行して加速された時間が走るといったおもむき。だから、渦が生じるのだ。
 また、こうしてベースやドラムスがひょいと突出してくるさまは、地と図が反転するようでもある。隠れていた地が躍り出てくることで、それまで図であったオルガンやボーカルが背景にしりぞき、地だったものがまるで図へと反転してしまったかのような錯覚。それがはたして錯覚なのかそうでないのか、定かではないのだけれど。


YouTube - Led zeppelin - thank you
 YouTube で見つけたので、一応リンクはしておく。ただし、モニターに布をかけるなどして画面が見えないようにして聴くことをお勧めします。うっかり観ると、口の中が無性にかゆくなります。
 そんなこと言うとつい見たくなるのが人情だと思うので、説明いたしますと、おノロケ・ビデオの BGM にツェッペリンの曲を使っておられるのです。
 コメントにも、「この歌は特定の女性に捧げられたものじゃないよ。ほかの曲を使ったらよかったのに」とか「君たちが愛しあっているのは分かったけど、これ以上ないくらい馬鹿げたツェッペリンの使用法だね」とか書かれている。